◆船の旅◆


◆船の旅◆
 
 最近は、めっきり外出をすることが少なくなった。県外はおろか、家から出ることすら億劫に感じられる今日この頃。
 
 そんな私が、久々に、5年ぶりになるが東京へ出かけた。しかも、18時間かけて船で。単に交通費が一番安いと言うのがその理由だが、この間のテロ事件を思うと、飛行機はちょっと不安に感じるのは仕方がない。
 
 四国の山々を見ながら、学生の頃を思い出していた。雲一つないとまではいかないが、良い天気であった。明石海峡大橋ができて、関西への船の便が次々と廃止されていくのを思うと、こういった感情を抱くことはますます少なくなっていくのだろうと思う。
 
 船は、それほどの揺れもなく快適であった。途中から風が出てきたようで、多少揺れたかもしれないが、私にとっては気にはならなかった。それでも、船に弱い人は船酔いになるかも知れないが。
 
 少し昔の本だが、「SOPHIE'S WORLD」を読んだ。啓蒙主義からカント、ロマン主義ヘーゲルキルケゴールと。そう、私は昔、哲学科(キリスト教学)の学生であった。教官は、カントとキルケゴールについての書物を書いている人であった。
 
 私は、イギリスのロマン主義の詩人たち、ワーズワースシェリーを読んでいたような気もする。カントは、とにかく難しく感じた。分からなかった。そんなことを教官に遠慮もなく話したこともあったように記憶している。私の青春がそこには詰まっているような時代。
 
 朝は、早かった。日の出前に東京港に着いた。大型トラックが船から下りて来るのを見ながら、人気のない港のターミナルに座って、しばらく時を過ごした。朝日が正面から昇るのが見えた。その光が私を照らした。
 
 何故だろう。一筋の涙が頬を伝わるのを感じた。