◆ギリシア--ホメロスの音楽(その2)◆


ギリシア--ホメロスの音楽(その2)◆ 
 
 ホメロスに出てくるもう一つの楽器は、サルピンクス、つまりトランペット(ラッパ)です。これは、大音響の喩えとして用いられています。アキレウスの叫び(イーリアス第18歌)は、サルピンクスのようであったし、神々が諍いをおこした時(第21歌)、大天空はサルピンクスを吹き鳴らすように鳴り響いた。時代的には後のものですが、花瓶に描かれた絵には、ベルのついたとても細長い管のように描かれています。
 
 私たちは、このようにホメロスの中で音楽が奏でられたことを読んで知っているのですが、その音楽がどのようなものであったかは、全くわかりません。しかし、ホメロスの「イーリアス」や「オデュッセウス」を吟遊詩人たちが歌った音楽(朗詠)については、いくつか推論することができます。
 
 ホメロスの詩句の中には、非常に多くの数の決まり文句が織り込まれていることから、それに合わせて歌われた旋律線も、必ずしも特定の言葉が旋律の定型とつながっているとは限りませんが、多くの定型の旋律を含んでいたと考えても不合理なことではないでしょう。恐らく、それらは狭い音域のものであって、初期のほとんど長さの等しい4弦のフォルミンクスでも容易に伴奏できたでしょう。
 
 こうした仮説は、定型の旋律による曲が、ずっと後の地中海や西アジア地域で普通に行われていたこと、きわめて限られた音域というのは、ロシアのブィリーナのような現代にまで伝わる、歌を伴う叙事詩の音楽を特徴づけているという事実から支持されています。もちろん、確定しているわけではありません。