プロローグ--聖書における音楽


 ここでは、旧約聖書に出てくる楽器の名前に注目しましょう。
 
 キンノール--ギリシアキタラ、リラと同種類の楽器であったことは確実視されている。
 ウガブ--葦笛であったとも縦型のフルートであったともいわれるが、今一つ決め手がない。管楽器であったことには間違いはないであろう。
 ネベル--旧約の中で最も多く言及されている弦楽器。議論の絶えないところであるが、少なくとも数多くの弦をもつハープかプサルテリウムのような楽器であっただろう。
 ハリール--原始的なクラリネットともギリシアのアウロスのようなものとも言われる。
 ケレン、ショーファル--共に角笛であるが区別は明確ではない。ショーファルは、悪魔を追い払う力を持つというので、ユダヤ教会の礼拝において用いられ、その伝統は現在にまで受け継がれている。
 ハツォツェラー--ラッパの一種で会衆を集めるときに用いられた。
 トフ--にぎやかな祭りなどに用いられた「小太鼓」。「太鼓」と訳されることもある。
 メナアニーム--最近の学説によれば、振って音を出すガラガラのようなもの。
 メツィルタイム、ツィルツリーム--ともにシンバルのようなもの。違いは明確ではない。
 
 日本語訳では、その楽器のもとの名称は分からないことが多いですので、ここに書いたことは、あまり意味がないかも知れませんが、音楽史を勉強しようと言うぐらいの人であれば、これぐらいの知識はあってもいいとは思いますが、いかがでしょう。
 
 一方、新約聖書では、楽器が出てくることは稀です。新約聖書では、無伴奏で歌われた可能性が極めて高いのです。
 
 ルカ伝に含まれる賛歌は、後にキリスト教典礼で重要な地位を占めるようになり、その歌詞に基づいて数多くの作品が作曲されるのようになったことはご存じでしょう。
 
 また、キリストの最後の晩餐は、キリスト教独自の信仰の基盤であり、後に最後の晩餐を再現する儀式が定着し、それが聖餐式(ミサ)として確立することは、音楽史を考える上でも極めて重要です。