◆聖マルティアリスとサンチアゴ・ポリフォニー◆


 ◆聖マルティアリスとサンチアゴポリフォニー

 本当の起源は確かではありませんが、一般に、リモージュ(Limoges)の聖マルティアリス修道院(St. Martial Abbey)のものと言われている写本(Paris, Bibl.Nat.lat.1139,3549と 3719。また、London, Brit.Lib.Add.36881)などの12世紀の資料、また、1130年のすぐ後に、中央フランス、恐らくクリュニーの一地域で作られたもので、真実ではないでしょうが、コンポステラのサンチアゴのものと伝えられているカリクスティヌス写本(Codex Calixtinus)の中に、私たちは、華やかな性格のオルガン・パートを初めて見いだしますが、それによって、主旋律は、はるかに遅くなったに違いありません。

 これらの写本は、全体として、非常に多くのモノフォニー曲と深く関連しあって、初期12世紀ポリフォニーの大文献集成を形造っています。いくつかの曲は、その二つ以上の写本に見いだされます。例えば、ストロフィック(strophic)な歌「per partem viriginis」は、これらの資料の中で最も初期のもの、1000年頃の Bibl.Nat.1139には含まれていませんが、半世紀後の Bibl.Nat.codicesにも、さらに後の年代の British Libraryの写
本の中にも含まれています。

Bibl.Nat.3719版は、この時代の問題の性格を示しています。最も優れた学者たちでさえ、次のような場合のあることを示唆しているのです。(a)主パート(旋律)は同一の音価で、オルガナーリスが様々な音価である。(b)オルガナーリスが同一の音価で、主パートの方が様々な音価である。しかし、垂直線さえ、普通はっきりしていませんし、3549版のものとは異なっています。British Libraryの版は、もっとはっきりしていて、現代の小節線(bar lines)のような縦の線になっています。ネウマは、後期アキテーヌ(Aquitanian)のもので、譜表の線は、まだ彫針(dry point)で書かれているのですが、今や「四角」になっています。しかし、音価の問題は、未解決のままです。

 しかし、これらマルティアリスの曲の多くでは、両方のパートは、一音対一音で、一時的な装飾を伴って平行に移動しています。そこで、学者達は、特に賛美歌の場合、行の上に、韻律を書き写そうと試みました。(カリクスティヌス写本の讃歌の一つ、「Congaudeant catholici」では、少し後に、第三のパートを--オリジナルのオルガナーリスを単純化したヴァージョンと余り変わらない--下のパートに一音対一音で書き加えています。このようにして、最も初期の三パートの例が生み出されたことが知られています。

アレルヤ唱「Vocavit Jhesus」を「Magister Coslenus episcopus Suessionis(ソワソンの司教、コスレヌス師)」のものだと言うのと同じように、「Magister Albertus Parisiensis(パリのアルベルトゥス師)」のものだと言うことは、また、同じ写本の他の真偽の定かでない作曲家たち--ほとんどがフランス司教--は、写本の音楽とは関係のないところで権威が主張されている著名な人たちは言うまでもなく、ずっと、偽であると見なされてきました。

しかし、パリのノートルダムカントール(cantor)、アルベルトゥスは、疑いなくいました。彼は、1180年頃に没し、教会にミサ典書(Missal)、聖句集 (Lectionary)、グラドゥアーレと「讃歌のある聖詩集(プサルテリウム)(Psalterium cum hymnis)」を後世に伝えています。時折、華やかなまた一音対一音のポリフォニーが、Bibl.Nat.3549のクリスマス・グラドゥアーレ・トロープス「Viderunt Hemanuel」のように、見いだされます。