◆トロープスとセクエンティア◆


 ◆トロープスとセクエンティア

 聖マルティアリス-カリクスティン写本(St.Martial-Calixtine)の中にある「Viderunt Hemanuel」は、その写本の中で目立っている作曲型、ウェルスス(versus)とトロープス(tropus)、すなわち讃歌と詩句--ここでのように同一の時もありますが--だけでなく、900年頃までに十分確立されていた礼拝式(practice)やトロープスの挿入(troping)の仕方についても、非常に好都合なことに例証してくれています。後期ラテン語では、tropareは「歌う」という意味で、トロープスというのは旋律でした。より正確には、音楽あるいはテキストを、あるいはもっと普通には、その両方を「聖務」の典礼の一節に加えることでした。

重要なことですが、その礼拝は、教会が典礼及び音楽の統一を確立しようとしていたまさにその時に広まり始めます。トロープスの最も初期の形については、聖アウグスティヌスが語り、疑いなく(その時代より)ずっと古くからあるアレルヤの言葉のないユビルス(jubilus)のことでした。そして、メッスのアマラルが、人々が「セクエンティア(sequentia)」と呼ぶ、このユビラティオ(jubilatio)について話すとき、まさに、これを意味しているように思われます。

しかし、アマラルのすぐ後に、フクバルトやノトカー・バルブルス(Notker Balbulus)、ムシカ・エンキリアディスの著者らが、セクエンティアの新しい扱い方を説明し、例証しているのを私たちは発見します。885年頃書かれた Liber Hymnorum(讃歌の書)への序(Prooemium)の中で、ノトカーは、ルーアン(Rouen)近くのジュミエージュ(Jumie`ge)の修道院が破壊されたとき、一人の修道士がどのように逃れたか、以前は言葉のなかったセクエンティアに詩句(verses)が付け加えられたアンティフォナーレ曲集(Antiphonary)をサン・ゴールへどのようにもたらしたか、しばしば引用される説明をしています。

ノトカーは、もっと改良することができると感じていて、10世紀と11世紀の多くの写本に保存されている彼の Liberは、そうしたセクエンティアを40,それまで存在していた旋律に詩句を付け加えたものもあれば、新しく作曲した旋律を付けたものもありますが、含んでいます。ムシカ・エンキリアディスの著者、あるいは、その写本の一つの書写生は、セクエンティア「Rex caeli」の音楽と言葉をオルガヌムを説明するために引用しています。

 繰り返される旋律に付けられた二重行のストローフィは、普通独立した始まりと終わりのストローフィによって「枠で囲まれて」いますが、それは、セクエンツィアに特徴的なものです。フクバルトは、De Institutione Harmonicaの中で、「Stans a longe」という一つのセクエンティアに言及しているだけでなく、すでに私たちが見てきたように、グロリアの中に挿入されたラウダ、すなわちグロリア・トロープスの作曲家でもありました。

実際、リチャード・クロッカー(Richard Crocker)が指摘しているように、グロリアを歌うことは、最近まで司教の特権でした。--そして、ペーター・ワーグナー(Peter Wagner)によれば、「その最も古いグロリアの旋律は、あるフレーズの朗誦の性格を持っていた・・・。歌というより朗読であった。」--一方、アニュス・デイは、アウレリアヌス・レオメンシス(Aurelian of Reome)によって、ミサの儀式の一部として、初めて記録されています。(これに関して言いますと、クレドは、まだその一部ではありませんでした。)

このように、多くのグロリアやその他の旋律は、改竄された言葉につけられた旋律より、決して古いわけではないでしょう。重要な点は、10世紀と11世紀との間、特に「フランクの」地で、新しい作曲の形態がほとばしり出ていたということです。讃歌(hymnis)、アンティフォナーレ、トロープス、そしてセクエンティアと。

 これまでに、私たちが気づいているように、多くのトロープスは、ポリフォニー的でありました。--そして、ポリフォニー的なトロープスが、全般に、西洋音楽に於いて、評価しきれないほど重要な発展へと導くことになります。しかし、例えば、私たちが、聖マルティアリス写本と漠然と呼んでいるものの中では、モノフォニー的なトロープスとセクエンティアが、その数でははるかにポリフォニーを凌いでいます。ほぼ11世紀のものである写本が数十もある中で、そこには、ポリフォニーの曲は一つも含まれていません。また、ポリフォニーの曲を含む、すでに述べた後の4つの写本でさえ、ポリフォニーの曲とほとんど同じくらいの数のモノフォニーの曲が含まれています。

しかし、その割合は異なっていて、4つの中で、最も初期のもの、Bibl.Nat.1139は、二声の曲13に対して、38のモノフォニーの曲があります。あとの 3549と 3719では、52に対して47、4つの中で最も後の Brit.Lib.36881では、30のポリフォニーの曲に対して、モノフォニーの曲は7つしかありません。「ポリフォニーの」曲でさえ、特に讃歌は、しばしば、モノフォニーとポリフォニーの入り混じったものです。