グレゴリオ聖歌の変容(その3)


 ダニエル物語とコンドゥクトゥス

 典礼劇の中で最もよく知られているのは「ダニエル物語」でしょう。12世紀半ば北フランスの古都ボーヴェーの「若者(神学生)たち」によって演じられたことが知られており、この作品唯一の原典は、大英図書館に保管されています。
 前後2つの部分からなり、旧約聖書ダニエル書(第5章第6章)に基づいています。
 劇の最後には、天使が現れ、救世主の誕生をつげ、それに応えて全員が聖歌「テ・デウム」を歌うことから、クリスマスシーズンに演じられた可能性が高いと見られています。

 先のヘロデ王物語とダニエル物語に共通したひとつの流行がありました。
 それはコンドゥクトゥスという新しい分野の出現です。コンドゥクトゥスというのは、「導く」というラテン語から「導くための歌」-->「行列歌」という意味になったもので、当時の行列の流行に沿ったものでしょう。

 典礼劇は、聖母に関するもの(受胎告知や聖母被昇天)も人気を博します。他に聖パウロやラザロの復活などの物語もありました。

 その他の中世音楽

 正規の礼拝とは無関係な音楽劇を、道徳劇や奇跡劇、神秘劇と呼びます。道徳劇として知られるのは、修道女院ヒルデガルド・フォン・ビンゲン作と言われる「道徳の秩序(Ordo vortutem)」です。最初のオラトリオか宗教的オペラかと議論されることもあります。1600年作のエミリオ・デ・カヴァリエーリの「魂と肉体の劇」と内容が類似しています。

 典礼劇は、聖職者及びそれに準ずる人が教会内で行っていたのですが、13世紀以後、俗語でも演じられるようになり、規模も大きくなります。14世紀になりますと、職業的芸人の手に移り、町の中心にある広場などで上演されるようになります。こうして生まれたのが神秘劇、奇跡劇です。一部、現代でも地方的伝承として受け継がれているものもあります。