グレゴリオ聖歌の変容(その4)


 最古のポリフォニーの資料

 聖歌の旋律に対旋律を付けて同時に複数の旋律を歌おうというオルガヌムが、いつどのようにして起きたかは、いまだに謎です。
 そのような演奏が行われていたと9世紀後期(一説では10世紀初期)の音楽の教科書である「ムシカ・エンキリアディス(音楽提要)」とその解説書である「スコリカ・エンキリアディス(提要解題)」に記されているのですが。
 「ムシカ・エンキリアディス」には具体的な作品の楽譜は含まれていません。オルガヌムとはどのような音楽かという説明と断片的な譜例だけです。

 オルガヌム

 主声部が聖歌の旋律を歌い、オルガヌム声部と呼ばれる第2の声部は、主声部より完全4度または完全5度下で同じ旋律を重複して歌います。さらに、この2つの声部の片方あるいは両方で1オクターヴ上か下かで重複しても構いませんでした。つまり3声部・4声部でも歌えるのですが、すべての声部は完全に平行して動きます。(平行オルガヌム
 オルガヌム声部を完全4度下で歌うと、主旋律にロ音が現れたとき悪魔の音程(増4度、3全音)が生じます。それを避けるために、ロ音の出てくるパッセージを終えるまで、第2声部はト音以下に下がってはならないという規則を作りました。これが、結果として自由オルガヌムの第1歩となりました。
 「ムシカ・エンキリアディス」の2つの譜例を復元した2声オルガヌム「天の主よ、とどろく海の主よ(Rex coeli domine)」は初期ポリフォニーの最も有名な例です。

 オルガヌムの発展

 1025年頃、グイード・ダレッツォは、初心者の手引き「ミクロログス(小宇宙)」を書きます。ここでは、平行オルガヌムが基本です。
 1100年頃と推定されている「オルガヌムを創るには(Ad organum faciendum)」では、自由オルガヌムが主力になっています。
 オルガヌムが楽譜にちゃんと記されるようになるのは、11世紀半ばの以降のことです。