ルネサンス初期の教会音楽(その1)


 ルネサンス音楽の誕生

 15世紀前半、画期的な音楽様式の変化が起こります。当時の人々にもはっきりと分かるような変化でした。 1470年代に、ナポリの宮廷で活躍していた音楽理論ヨハネス・ティンクトリスは、そうした変化が40年ほど前に起こったことを証言し、新しい音楽は「甘美な響き」を特徴とすると述べています。
 その「甘美な響き」とは、ダンスタブルを代表とするイングランドの音楽の影響によるもので、デュファイとバンショワの作品に始まります。

 15世紀前半のどこかで、音楽史における中世が終わり、新しい音楽の時代となりました。より合理的で実用的な音楽、歌いやすく効果的であり、自然のリズムと流れるような旋律の動きをその特徴とし、耳に快く聞こえる音楽でした。
 15・16世紀をルネサンス時代と呼ぶように、その新しい音楽を、異論もありますが、ルネサンス音楽と呼んでいます。

 新しい教会音楽

 1世紀にわたって続いた教会内の紛争も、1417年、マルティヌス5世が新しい教皇に選出されて一応決着が付き、宗教的世界にも平和が戻ります。
 ローマでは、教皇礼拝堂の新しい組織作り、有能な音楽家を集めて聖歌隊の新しいメンバーの結成、大半は当時ブルゴーニュ公国に所属していたフランドルとその周辺の地域から選ばれます。この傾向は、16世紀後期まで続き、フランドル楽派の栄光の歴史がここに始まります。
 ミサにおいても聖務日課においても、グレゴリオ聖歌が礼拝に花を添えていましたが、少しでも重要な儀式になるとポリフォニーを交えて歌うことが期待され、その要求に答えて新しい教会音楽が15世紀前半に多く現れます。
 新しい教会音楽の基礎を固め、後年の教会音楽家たちに模範を示したのが、この時代を代表するフランドル出身の巨匠ギョーム・デュファイ(1400年頃 - 1474年)でした。