◆ロバーツブリッジ写本◆


 ◆ロバーツブリッジ写本◆

 「フォヴェール物語」の中にあるヴィトリのモテトゥスのうちの二つ、「Firmissime/Adesto, Sancta Trinitas/Alleluya, Benedictus」と「Tribum, quem non abhorruit/Quoniam secta latronum/Merito hec patimur」は、別の理由から注目すべきものです。それらが筆写されたものが Brit.Lib.Add.28550 という鍵盤音楽の最も初期の知られた曲集に含まれているからです。

それは、サセックス(Sussex)のロバーツブリッジ修道院 (Robertsbridge Abbey)の古い記録と深い関わりがあります。恐らく、1325年にさかのぼるでしょうが、もしそうなら、実際には「フォヴェール」の写本と同時代のものです。

ロバーツブリッジ写本には、プンクトゥムエスタンピ(estampie)様式の紛れもなく純粋な器楽曲の終わり部分とこの形式の2つの完全な曲、二つの「フォヴェール」からの写しなどが含まれています。これらは、小さなオルガンで演奏されることを意味していたのかも知れません。しかし、ほんの少し後の 1360年に、エドワード3世は、捕虜であったフランスのジャンヌ2世(John of France)に、エスキキエ?(eschiquier)(恐らくハープシコードの祖先)をプレゼントしたという記録が残っています。

マショーは、音楽の作品でない著作の中で、二度イギリスのエスカキエ?(eschaquiers d'Engleterre)と言う楽器に言及しています。オルガンあるいはエスキキエ?では、演奏家は、もともと2ページに別々に書かれているパートを同時に読み演奏しなければなりませんでした。そうした演奏を可能とするには、それぞれのパートを圧縮した形に「タブラチュア化(intabulate)」しなければなりませんでした。

ロバーツブリッジ写本に採用された方法は、また、1世紀かそれ以上後のドイツのオルガンのタブラチュアもそうですが、最も高いパートを譜表に普通の記譜法で書き、その他のパートは、一般にアルファベットの文字で書くことでした。しかし、最も高いパートも、決して単にそのまま写されただけではありませんでした。それには「色が加えられ(coloured)」ました。つまり装飾的なものが付け加えられていたのです。その用語は、現代の「コロラトゥーラ」の中に生き残っています。