◆ロバーツブリッジ写本(その2)◆


 ◆ロバーツブリッジ写本(その2)◆

 この写本で注目すべき点の一つに、ムシカ・フィクタ(musica ficta)、中世とルネサンスの音楽研究をずっと厄介なものにしてきた臨時記号を「暗示する」ものを挿入するというあの実践を伴うもののことですが、その扱いがあります。

 例えば、筆写者は、B音にフラットが挿入されている部分で、不快な減五度を避けるためにBを半音下げるのではなく、Fを半音上げるという扱いをしているところがあります。これは、その当時の音楽家の実際的な解決法であったのでしょう。他にも、彼は、5度が特に鍵盤で効果的であるところでは、自由に臨時記号を書き足したりしています。

 ところで、ロバーツブリッジ写本の筆写者が、この2つのモテトゥスをなぜ選んだか、推測さえできます。一つは、当時話題となっていたからで、もう一つは、それが特別なカテゴリ、政治的なものであったからです。

「Tribum/Quoniam secta latronum/Merito」は、恐らく、絞首刑にされた端麗王フィリップの大法官アンゲラン・ドゥ・マリニ(Enguerrand de Marigny)のことで、その没落を世の人々は歓んでいたのでしょう、それは、とても気に入られていた作品で、フォヴェールの他のどのモテトゥスより多くの資料に出てきます。一方「Firmissime/Adesto/Alleluya」は、論争がないと言うことでユニークですが、モテトゥスが国家の祭典のために書かれることはよくありました。