◆14世紀イギリス音楽◆


 ◆14世紀イギリス音楽◆

 イギリス音楽は、イタリア音楽より遙かにフランス音楽と緊密な関係にありました。「Triumphat hodie/Trop avet fet/Amy」でのように、フランスの世俗のテノールを宗教的モテトゥスに用いさえしています。それは、Oxford, New College 362(14世紀初期イギリス音楽の重要な資料)とBrit.Lib.,Add.24198 とから継ぎ足して作られています。New College 362の二つのモテトゥスは、共に、テノールとしてヴィルレの旋律「Mariounette douche」を用いています。一つは、それを器楽的に用い、三つのパートがあり、もう一つは、中声に新しいテキスト「Virgo mater」があって、その三声の曲では最も低いパートは器楽的で名ばかりのテノールで、明らかに後に作曲されたものです。

テノールのカントゥス・フィルムスを最も下のパートではなく、真ん中のパートに置くことは、実は、イギリスでは普通に行われていることでした。これらの New College のモテトゥスは、またイギリスの技法の別の特徴も例示しています。それは、イギリス音楽をフランス音楽の主流と区別するもので、私たちは、そのことでイギリス音楽の特徴を語ることができます。私たちは、ウォルター・オディントン(Walter Odington)が、テノールのパートが完全に交替し、コンドゥクトゥス様式の同時のリズムに合わせるイギリス特有のロンデルス(rondellus)の技法をどのように述べているかをすでに見てきました。

「Triumphat hodie」では、テノールは、下の二つの声部の間で交代します。このように、その二つの声部は、真のテノールとその対位するものとを交替に歌います。- しかし、曲は、完全なフランスのホケトゥスで終わっています。四声部の「Mariounette douche」は、リズムの同時性においても、平行3度や6度、6度やオクターヴで解決する不完全な協和音を頻繁に採用することにおいても、コンドゥクトゥスのようです。これは、他の文脈においても同様に、その時期のイギリスで最も一般的なカデンツァ(終止形)でした。

 平行3度と6度は、とりわけイギリス音楽の著しい特徴であり、あまりにも陳腐なものですが、このように、一目見て単旋律聖歌の上に、即興で「ディスカントゥスを付ける」ことが実践されていました。それは、イギリスのロンデルス・コンドゥクトゥス・モテトゥス(rondellus conductus-motet)の典型であり、また、イギリスで重要性を増していた典礼作品の一つの型でもあります。下の二つのパートが、テノールのフレーズ - ウスター(Worcester)とセーラム(Sarum)の交唱聖歌集の「Ave Rex」、音楽的には、ローマのアンティフォン「Ave Regina caelorum」(Liber Usualis, p.1864)と同一のもの - をロンデルス様式で交替させるだけでなく、同時に上の声部も同様にフレーズを交替しています。

一方、この同じ写本の後の部分にある四つのモテトゥスは、記譜と技法とにおいて、アイソリズムのあるフランスのものです。その一つ、「Domine quis habitabit/De veri cordis/Concupisco」は、実は、イヴレア写本(Ivrea codex)に「Se paour d'umble astinance/Diex tan desir estre ames d'amour/Concupisco」として現れます。「Sub Arturo」同様、それらは、その世紀の中頃以降に年代付けられなければならないでしょう。

このように、イタリア音楽にフランス音楽が影響を与えていたのと同じ頃、フランスの影響の新しい波がイギリスでも感じ取られていたように思えます。フランスとイタリアとの著しい対照について、残念なことに、私たちは、この時期の世俗のポリフォニーあるいは俗語(vernacular)のテキストをほとんど持っていません。宗教作品の多くは、断片でしか残っていませんし、実際、すべて作曲者不詳です。「Sub Arturo」のトリプルムの中でイギリスの音楽家たちを捜してみても、どの名前も確定することができません。「J. de Corbe」「Ricardus Blich」「Blich G」(Richard また恐らく William Blithe)「Episwich J」(John of Ipswich)その他の人々は、Anonymous IV のMakeblites や Blacksmits 同様、影のような人物のままです。