◆翻訳者たちの世紀◆


 ◆翻訳者たちの世紀◆

 12世紀は、キリスト教ヨーロッパにとって、9世紀が東方イスラム教世界においてそうであったのと同じ関係、翻訳の時代でした。バグダードの場合は、これらの翻訳はギリシア語からアラビア語への翻訳でしたが、キリスト教ヨーロッパの場合は、アラビア語からラテン語への翻訳でした。東方の学問を知ろうとするこの願望の理由を見いだすのは困難なことではないでしょう。

11世紀との関連ですでに述べた理由は、100年たった後には、さらに一層強くなっていました。芸術や学問におけるムーア人の影響によるスペインの発展は、すでに、フランスやイタリア、イングランドの教会の学校の上流階級の人々に知的な不安を引き起こしていました。

この不安の結果がスペインへの学生たちの流入であり、様々な学者たちの側からは、アラビアの何らかの知識の獲得であり、東方の学問を知り知らしめたいという強い欲求であったのです。ちょうど、バグダードが決してギリシアの文学を翻訳せず、ギリシアの科学学問を熱心に知ろうとしたように、ヨーロッパも、アラビアの文学にはほとんど注意を向けず、カリフの首都で名声を得ていた天文学、算術、三角法、光学、占星術幾何学、そして医学についての著作に非常な関心が向けられました。

ユークリッド(エウクレイデス)の「幾何学原論」でさえ、オリジナルのギリシア語でなく、主としてアラビア語の翻訳を通してラテン教会の学者たちには知られるようになったのです。