中世盛期のポリフォニーと宗教歌曲(その1)
ウィンチェスターのトロープス集
楽譜として残されたオルガヌムの最初のコレクションは、南イングランドのウィンチェスター大聖堂で用いられていた2冊のトロープス集に含まれています。すべて2声部で、音の高さを明示しないネウマ譜で書かれています。これは、トロープスとオルガヌムが極めて近い関係にあったことを示しています。
アキテーヌのポリフォニー
12世紀前期のオルガヌムの一番重要なレパートリーは、かつてフランス中央部のリモージュにあった聖マルシャル修道院で見つかっています。サン・マルシャル楽派と呼ばれたこともあります。この一帯は、ポワティエを都とするアキテーヌ公国でした。
ここは、エルサレム、ローマに次ぐ人気の巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラへの通り道でもあります。
カリクスティヌス写本
巡礼の道は、アキテーヌ地方のほぼ中心部を通っており、文化交流の役割も果たしていました。主要なオルガヌムの原典の一つが、巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラにも1冊残っています。教皇カリクストゥス2世(1119-24年)が編纂したという伝承があり、「カリクスティヌス写本」として知られています。もともとフランス中部で筆者されたものと主張する学者もおりますが。アキテーヌのポリフォニーと密接な関係にあります。
アキテーヌのポリフォニーの中心は2声のオルガヌムですが、同じ曲集に、単旋律または2声のコンドゥクトゥスが一緒に書き写されているのは興味深いところです。
オルガヌムは、既成の旋律、つまり聖歌の一部に対旋律をつけたものですが、コンドゥクトゥスは、初めから行列歌として作られた新曲です。
メリスマ型オルガヌム
アキテーヌ起源の2声のオルガヌムの多くは、原則的に2つの旋律の音符が一対一で動きます。聖歌のそれぞれの音を長く伸ばしながら、対旋律として多くの音を含む華やかな旋律を歌う手法が考え出されます。これをメリスマ型オルガヌムとも呼びますが、当時の理論家たちは、こうした書法をオルガヌム様式と呼び、一音対一音で動くディスカントゥス様式と区別していました。
オルガヌムのリズム
オルガヌムの現存する楽譜では、リズムが明確ではありません。グレゴリオ聖歌同様、自由なリズムで歌うというのが最も一般的ですが、一定の規則によっていたと考える人もいます。