◆オルガヌム大曲集◆


オルガヌム大曲集◆

 ところで、私たちは、「オルガヌム大曲集(the Magnus liber organi)」そのものを4部持っています。残念なことですが、オリジナルと言えるものは、一つもありませんが。

 Wolfenbuettel,Herzogl.Bibl.677, 一般に W1として知られる。
 Florence,Bibl.Laur.,plut.xxix,I, 一般に Fとして知られる。
 Madrid,Bibl.Nac.20486.
 Wolfenbuettel,Herzogl.Bibl.1206, すなわち W2.

 最も重要なものは、W1と Fです。最も古い写本ではないのですが W1は、1163-82年のもとの形に最も近いレオニヌスの「大曲集(Magnus liber)」を私たちに見せてくれるように思えます。それには、聖務日課とミサのためのアンティフォナリー(交唱聖歌集)とグラドゥアーレのためのニ声のオルガヌムの唱和句(responds)、それに、恐らく Anonymous IV がペロティヌスのものといった「Alleluia:Nativitas」を含むいくつかの三声のオルガヌム、そして、疑いなく彼のもので、それぞれ 1198年と1199年に確実に年代付けられる四声の「Viderunt」と「Sederunt」が含まれています。W1は、イギリスで、恐らく、ウィンチェスターかイーリー(Ely)で編纂されたことは、ほぼ確実でしょう。

恐らくイギリス起源でしょうが、500枚にも及ぶすばらしいフィレンツェの写本(F)の中で、「大曲集(Magnus liber)」(かなり増えてはいますが)は82枚を占めているに過ぎません。スペインの写本は誤り伝えられていますし、W2は、Fと共通している曲があまりに多くあります。これら4つの写本が、「大曲集(Magnus liber)」の一部を伝える唯一の写本ではありませんし、それらが12世紀後半から保存されているポリフォニーのすべてを含んでいるわけでもありません。いくつかは、ボヴェ(Beauvais)やサンス(Sens)に起源のあるものもあります。しかし、その重要性は、他のすべてのものが周縁的なものに過ぎないとみなさなければならないほど、パリでは中心的地位を確立しているのです。

 モーダル・リズムの例のほとんどは、実際にどんなリズムであったのかそれほど明瞭ではありません。書かれている記譜は、いろいろな別の読み方が可能なのです。実際のところ、モーダル・リズムの解釈は、現代では、針の先端の角度の計算と同じ位異論の多いことであること(非常に議論の余地があること)が証明されています。しかし、中世の間だけでなく、その後何世紀もの間、唯一の「正しい」演奏方法といった概念は、まだ存在しませんでした。絶対に認められないという方法ではなく、認められうるいくつかの方法の一つの選択であったのです。ガルダンディアは、そのように、ペロティヌスのクァドルプルムでの楽器の使用についてさりげなく言及しています。--時折、各パートが人間の声では高すぎたり低すぎたりすることがある。--しかし、それがどのようなことであったのか、ヒントは与えられていません。