◆モテトゥスの発展◆


 ◆モテトゥスの発展◆

 モテトゥスのコレクションは、どれも、私たちが大雑把にでも年代順に並べるのに都合のよいようには配列されていませんが、その発展の跡をたどることは可能です。

同じリズムで同じテキストが歌われるモテトゥスとトリプルム(第3の声部)を持った「コンドゥクトゥス・モテトゥス」はすぐに姿を消します。ノートルダム写本 F(Notre Dame codex F)の初期の時代、「Et gaudebit」というテノールの上に、二つのモテトゥス(double motet)を見いだします。その上のモテトゥスは高位聖職者を讃えていますが、一方、異なった韻律と音楽リズムのトリプルムは「偽善的偽聖職者」を弾劾しています。疑いなく、楽しんで歌われたのでしょう。

次のステップは、俗語(その地方の言葉、もちろん実際はすべてフランス語)のテキストの導入でした。若干プロヴァンス語のものもありますし、英語の最も初期の例「Worldes blise have god day/Benedicamus Domino」は 1280年頃に現れています。時折、Moの 第3分冊全体のように、ラテン語のモテトゥスはフランス語のトリプルムを持っています。第5分冊では、ほとんどの場合、上のパートはともにフランス語であり、実際には一つがフランス語のテノール(すべてブレヴィスで記譜されている)で、それはその世紀の終わりまでには珍しいものではなくなりますが、一つの希な例です。第2分冊には、さらに一層例外的な4声部すべてがフランス語のテキスト(完全にロンガで記譜されたテノール)のモテトゥスがあります。

しかし、言語が入れ替わることは、特にトリプルムにおいては、モテトゥスのレパートリー全体を通じて一般的なことで、フランス語のテキストのラテン語コントラファクタ(翻訳翻案=歌詞を入れ替えたもの)や、またその逆のものを見いだします。トリプルムが加えられるだけでなく取り除かれたものを見いだすのも普通のことです。もちろん、単一のモテトゥスは、事実上、伴奏を伴ったソロの歌で、この種のフランス語のモテトゥスは、13世紀前半の間、とても人気がありました。そのラテン語コントラファクタは、恐らく「オルガヌムクラウスラ、そしてモテトゥスの作曲や典礼の中にこれまで存在してきた、緊密な関係を切り離そうとする兆しのみられる世俗曲の傾向を摘み取ろうとする」むなしい試みであったのかも知れません。