中世盛期のポリフォニーと宗教歌曲(その2)


 アルベルトゥス師作のコンドゥクトゥス

 「カリクスティヌス写本」の中に「パリのアルベルトゥス師の作」と記された「ともに喜べ、カトリック信者たちよ(Congaudent catholici)」という曲があります。
 この曲には3つの旋律が記されているのですが、3つ全部を同時に歌うという説と、3つのうち2つはどちらかを歌うとする2声部の曲だという説とがあります。最初の説だとしますと、この時代書かれたポリフォニーの最古の3声部の作品ということになります。

 この作者アルベルトゥス師が、パリのノートルダム大聖堂で、1146年から 1177年にかけて聖歌隊の指導にあたる先唱者(カントル)の役職にあったアルベルトゥス・スタンペンシスと同一人物であった可能性は極めて高いと言われています。
 従来サン・マルシャル楽派の名で知られていたアキテーヌポリフォニーと12世紀後半に栄えたノートルダム楽派の音楽との接点が、こんなところに見られます。

 12世紀パリとノートルダム大聖堂

 13世紀半ば、パリ大学に留学していたイングランドの学生 - 「第4の無名者(Annonymous 4)」として知られていますが - の重要な証言があります。
 それによりますと、レオニヌスというすばらしいオルガヌム作者がいたということ、さらにペロティヌスの作品として具体的に7つの作品が挙げられています。この証言と一致する写本がいくつか見つかっています。
 レオニヌスのオルガヌムは2声部、ペロティヌスの作品は3声部または4声部です。この2人の作曲家を中心としたポリフォニー音楽を、ノートルダム楽派(パリ楽派)と呼びます。

 ノートルダム楽派のリズム

 ノートルダム楽派の音楽の最大の特徴は、そのリズムです。修辞学で学んだ韻律論を応用して6つのリズムモード(リズムの定型)を定め、それを応用して歌っています。具体的には、1拍(タクトゥス)を3等分し、相対的な長短の関係で表示します。3通りの長さを長短2通りで判別するところからいろいろ問題が生じているのですが。

 ディスカントゥス様式

 リズムモードの応用が最も明確に見られるのが、全声部がほぼ同じリズムで動くディスカントゥス様式の部分です。ペロティヌスは、ディスカントゥス様式で作曲することが得意でした。多くのディスカントゥス様式の楽節を作曲していますが、それらにはほとんど歌詞がありませんでした。それに言葉を付けることから生まれたのがモテトゥス(モテット)という新しい楽曲です。