中世盛期のポリフォニーと宗教歌曲(その4)


 聖母マリアのカンティガ集

 カンティガは、一般にはラウダのスペイン版で、ほぼ同じ頃流行した宗教歌曲と考えられていますが、現存するのは、カスティーリャとレオンの国王アルフォンソ10世が 1250年から30年かけて編纂させたという「聖母マリアのカンティガ集」だけです。400曲を超す大規模なもので、アルフォンソ10世自身の曲も数曲含まれています。ガルシア語で書かれています。

 ラウダは、新しい布教活動の中で民衆の歌として発展していき、キリスト教のさまざまな面が歌われているのですが、カンティガは、カトリック信者の権力者が率先して布教活動を行っており、またマリア信仰が中心となっています。

 「聖母マリアのカンティガ集」の持つ13世紀スペインの楽器に関する資料としての価値

 この曲集の各所には、色鮮やかな精密画が描かれているのですが、それらは重要な歴史的価値があります。
 描かれているのは、アルフォンソ10世と彼の宮廷における音楽活動ですが、当時の演奏慣習を示すものとして極めて興味深いものです。
 描かれている楽器には、この頃アラブ世界からイベリア半島を通してヨーロッパに伝わったと考えられているフィドル、レベック、リュート、ギター、カラムスなどが含まれています。それ以前からヨーロッパにあったものを加えると、40を超す楽器が描かれていることになります。
 この時代の楽器カタログとしては最大のものです。