ルネサンス初期の教会音楽(その3)


 新しい様式によるモテトゥス

 デュファイは、初期の頃からイソリズムの技法によらないモテトゥスも手がけてきました。ほとんどは3拍子の作品で、カンティレーナ様式の円熟した書法によっています。動きの多い旋律を持つ最上声部を2つの低音部(テノールコントラテノール)が支えるという書法が基本です。
 シャンソンなどの世俗歌曲の書法と変わらないもので、同じ音楽がラテン語のモテトゥスとフランス語のシャンソンと2通りの形で残っているものも数曲あります。
 同じようなカンティレーナ風の書法は、ミサの通常文、固有文、聖務日課のための作品にも多く見られます。

 フォーブルドン様式

 イングランドのファバードンを応用した作曲技法で、デュファイが考案者の可能性もあります。ファバードンと違って、聖歌を中間の声部ではなく最初から上声部に置きます。装飾された聖歌の旋律は、1オクターヴ上で上声部が歌います。テノールは、それを支える形で、ほぼ6度下で歌います。フレーズの初めと終わりでは、必ずオクターヴになりますが。コントラテノールは、上声部にある旋律を完全4度下に移して、厳格に平行を保ちながら歌います。ただ、声部間の平行という書法は、本質的に中世のものであり、やがて廃れてしまいますが。

 デュファイの賛歌

 3声部の書法による作品で、特に注目されるのは、約20曲が一組として作曲されたと思われる賛歌です。
 目的は、ローマ教皇礼拝堂のためという説とサヴォア公国の宮廷礼拝堂のためという2つの説があるそうですが、現在まだ決着はついていません。1430年代前半に書かれたことには異論はないようです。
 各部ごとに聖歌の斉唱とポリフォニーによる3重唱を交互に歌わせる聖歌隊全員と3人の独唱者によるアルテナティム奏法というものですが、こうした歌い方は、15世紀を通じて賛歌を歌う際の典型的な演奏法となります。

 デュファイの賛歌がシスティーナ礼拝堂でも歌われていたことを証言するような資料が、ローマ、ヴァチカン図書館にあります。「システィーナ礼拝堂第15番写本」というものです。