ルネサンス初期の教会音楽(その6)


 1430年代から 80年代の教会音楽(続き)

 この時代の教会音楽の発展には、いくつかの特徴があります。
 一つは、声部数の増加です。世紀半ばには3声部の書法が標準でしたが、半世紀後には、4声部の作品の方が一般になります。そして、本質的なバス声部が役割ができあがります。ルネサンス初期は、上声部の旋律をテノールコントラテノールという2つの低めの声部が共同で支えていましたが、世紀半ば以後になりますと、さらにそれより低い声部が現れ、最終的に、上の3声部を支えるようになります。それがバス声部で、一段と近代的なハーモニーに近づくことになりました。
 次に注目されるのが、定旋律の扱い方です。基本的に、テノール声部に任されていましたが、他の声部も同じ旋律の一部を引用したり、変化を与えたりするようになりました。

 模倣の手法

 一つの主題、あるいはモチーフを模倣するという書法を応用する頻度が次第に高くなり、最後には、曲全体が模倣の連続になります。それを通模倣様式と呼んでいますが、これこそ完成されたルネサンス音楽様式の最も重要な特徴の一つで、16世紀作曲家にとって、無視することのできない作曲技法となります。
 音楽リズム構成も、15世紀後半を通じ、3分割のリズムから2分割のリズムの割合が増え、その世紀末には逆転し、16世紀を通じて2分割のリズムが定着します。それは、今日の基本的リズム構成に受け継がれました。

 声部の均等化

 ポリフォニーの書法において、声部同士の間の様式的に均等な傾向が、次第にみられるようになります。デュファイの世代は、上声部は上声部らしく、テノールテノールらしく、コントラテノールコントラテノールらしく動いて役割を果たしていましたが、次第に、どの声部も同じような動きをするようになっていきます。
 こうした音楽の発展を通し、ルネサンス音楽が理想とした音による均整美の芸術が完成されていきます。

 この時代の教会作曲家

 デュファイとほぼ同じ頃に、パリのノートルダム大聖堂で活躍したエティエンヌ・グロサンや、リエージュの音楽家で、一時神聖ローマ帝国皇帝に仕えていたジャン・プラサール、ティンクトリスが高く評価しているギヨーム・フォーグなどがいます。
 ダンスタブルと同世代のイングランドの作曲家には、ジョン・ベネット、ジョン・ベディンカム、ウォルター・フライなどがいます。
 デュファイの次の世代には、アントワープのジャン・ビュロワ、ジャン・レジスなどがいますが、この世代を代表する作曲家といえば、ヨハネス・オケゲム(1497年没)でしょう。